今なお 苦闘する減農薬栽培
春3月、今年も頑張るぞと春作業に入ったある日、1通の文書が我が家に舞い込んだ。
なんの前触れもなく減農薬栽培をすると周りに迷惑がかかるから、すぐにやめて慣行栽培並の防除をしなさいという通知であった。
産地偽装や狂牛病など、食べ物に対する信頼や安全性が問われる中、私たちの長年の産直活動や農産物有機栽培、減農薬栽培の認証の取り組みがようやく産地でも受け入れられつつあると思い始めた矢先のことである。
産地では今なお、見栄えがよく、大玉の柿つくりのためには基準通りに栽培することが一番で、防除回数を少なくした人の柿は共同販売にもにも入れられないという農協や栽培振興会の方針が幅を利かせている(もっともこれは青果市場や一般消費者の購買行動の反映なのだが)。
申し入れの内容と、私の回答は以下の通りである。内容は一方的で、受け入れがたいものなのだが、わずか40戸前後の集落で、共有地で柿を栽培し、朝晩顔を合わせ、一生つき合っていかなければならない人たちからこのような申し入れを受けること自体、栽培法や技術の悩み以上に、私や家族にとって胃が痛くなるような大きなストレスになる。しかし、ここで引くわけにはいかない。胃薬でも頭痛薬でも何でも飲んで今年も何とか頑張ってみよう、さすがといわれる安全でおいしい柿を作るために。
申 入 書 平成14年3月21日
志籐正一 様
鷺畑果樹組合長 ○ ○ ○ ○
鷺畑果樹組合樹園地内において貴殿の管理する樹園地内で落葉病及び病害虫が発生しており、近隣園地内の方々から迷惑が掛かっているという申し入れがありましたので今後の防除管理に関しては、振興会の防除回数に従い管理徹底をお願いします。
尚貴殿の防除管理体制を文章で提出お願いいたします。
鷺畑果樹組合代表理事 ○ ○ ○ ○ 殿
H14.3.31
志籐 正一
平成13年は柿生産者の懸命の努力にも関わらず、各地で落葉病が散見され、カメムシの異常な発生が続いた年でありました。追い打ちをかけるように柿の市況は奮わず、柿生産も本当の意味で正念場にきていると思います。日頃より、組合長をはじめ役員の皆様のご努力に感謝いたします。先の申し入れに対し回答いたします。
私が管理する園地で落葉病及び病虫害が発生し、近隣園地に迷惑がかかってとの指摘ですが、私としましては、方法はやや違いますが、落葉病を始め、病害虫の防除には努力をしてきたところであり、何らかの話し合いもなく、客観的な調査もないままに片方の見方によって迷惑がかかっているというような申しれには応じることができません。この様な一方的な措置は組織としての社会性が問われる恐れがありますので是非、再考をいただきたいと思います。従って防除の方法も、振興会の防除回数に従って実施する事はできかねます。
ただ、私の柿の管理方法や防除の方法が、他の組合員の皆様と違うことが、上記のような指摘を受けている原因となっていると思われますので、この機会に私の柿管理の方法、特に病虫害に対する考え方と、実際に行っていることについて説明し、振興会の防除回数に従って実施できない理由を申し上げ、理解を得たいと思います。
柿生産と防除の考え方
柿を含め、生物には、それぞれ、病気や虫による被害を防御しようとする力が備わっています。これらの多くは生物体内やその表面にいる微生物の働きによるものと考えられています。
私は、自然にある植物から発酵によって抽出されたエキス(天恵緑汁、玄米酢等)や木酢液などを葉面散布することで、生体の防御機能をできるだけ強化し、化学農薬による防除はできるだけ少なくしたいと考えております。これまで化学農薬以外のこれら資材の効果については殆ど省みられることはありませんでしたが、最近では試験研究機関でもその効果についての研究が始まっています。しかし、化学農薬のように歴然とした効果が常にあるというものではありませんので、主要病害虫に対しては化学農薬との組み合わせで防除したいと考えております。
又落葉病については、良好な有機物、発酵資材の投入によって樹勢を維持することで発症を押さえることになると考えております。
農薬について
私は15年来の産直販売の中で、消費者がいかに、農産物の農薬に対して疑念を抱いているかを聞かされ続けてきました。発ガン性や、環境ホルモン、世代間による人体蓄積など、健康や環境に対する影響を心配する声は大きくなることはあっても小さくなることはありません。店舗に並んだ商品以外に選択の余地がない消費者としては当然なのかもしれません。これらの消費者の要望を生産の現場ですべてを受け入れることはできませんが、私達の農産物をお金を出して買って食べてくれるのは、農協でもなく、青果市場でもなくこれらの消費者の人たちなのですから、できるだけの努力をすべきと考えます。したがって農薬の使用に際しては山形県の防除基準や、振興会の防除計画の中で、健康や環境に対して影響を与える疑いのないものを選んで使用しております。又、農薬ではない自然界にあるもので、防虫効果や殺虫効果があるといわれる資材も検討しています。
防除計画について
今年度の防除計画については改良普及センターに指導をお願いし、別紙の通り検討中ですが、さらに検討を重ね、万全を期したいと考えております。
防除計画について
蛇足になりますが、今後の柿経営について私の経験と考え方を申し上げさせていただきます。
現今の農産物の低価格傾向は、経済不況に依るところが多きいと思われますが、他の大きい要素として農産物に対する消費者の不信感のようなものがあるように思います。特に最近の産地偽装や狂牛病の問題がこれらの不信感を増幅させているようです。
大玉生産や、きれいな柿作りのために防除の回数を徹底し、品質をそろえていくことはこれまでの柿生産と市場対策にはどうしても必要な方法であったと思われますが、安心や安全を求める人々には驚異と写り、不信感を招くことも是非考えていただきたいと思います。私は、ここ10年来化学肥料を全く使わず農薬も最低限の押さえて使用しながら栽培してきましたが、生産量は10トンを超え、柿の糖度も16度前後を維持しています。その殆どを産直販売しており、価格も一定で消費者から安全でおいしい柿として好評を得ています。
藤島町でも、新町長が特色のある農産物や産地作りとその積極的な販売を公約しており、柿の栽培においてもこれまでの振興会の方針に加えて、生産者の努力や特長を生かした特色ある柿作りを取り入れることが産地果樹組合の活性化や消費地の評価信頼につながると思われます。本組合は、農協での共販だけでなく、独自に並品の販売に取り組んで組合員の経営に大きな貢献をしてきた実績があります。今後共ともいろいろな可能性に取り組んでいただきますようお願いを申し上げます。そのために必要な情報があれば伝えていきたいと思いますので、ご検討いただきますようよろしくお願いします。
スケッチ
喚声を上げてる野球部の子供達に、私にもあんなはじけるような若い時があったのだと、まぶしい思いで見ていました。
50歳を目前にした私の身体は2~3年前から痛みを訴えるようになりました。この間も半身が痺れてきたと思ったら、頭痛に変わってきたので不安に思い、かかりつけの医師に駆け込みCTを撮ってもらいました。 所見は、「ストレスと過労」で問題はなかったものの、先生曰く「小野寺さん気持ちは20歳かもしれないけれど、身体は年相応だからあまり無理をしないように」だと。つまり更年期?ですか?
こんな体調だったけど、横浜に就職が決まった長男が、どんなところで働くのか、寮はどういう所にあるのか心配でついてゆきました。久しぶりに関東に出たこともあり、かねてより行ってみたかった「相田みつを記念館」に行きました。いい機会だからと息子を誘ったら、息子の友達もついてきました。今の若い人たちがこういう所に興味があるのか疑問でしたが、なんとまあじっくり見る事!相田みつをの詩が書いてある日めくりやキーホルダー等のグッズをしっかり買い込む姿に驚いてしまいました。
鶴岡を出て2年目の息子の友人が「あこがれて出てきた東京だけど、この頃帰りたいと思う時があるんだ」
家に戻った私は、しばし空虚感に襲われていました。そんなある日、中央公民館から前に出版した「菜なのキッチン」を使って料理講習をしてくれないかと話がありました。「菜なのキッチン」には郷土料理を中心に、若向けの料理や基本的な配膳の仕方、家庭料理ならではのちょっとした工夫等が解り易く載せてあります。
私たちの育てた野菜をもっと食べて欲しい、昔から食べてきた料理を次代につなぎたいと思い仲間達と作ったカード式の本です。思いの外評判が良くて、地産地消やスローフードが謳われる折、家庭料理がこれからの私の活路につながるのではないかと、とてもうれしく思っています。
また、ついこの間、念願だった農家民宿の認可がおりました。人と食と自然の宝庫のこの庄内をどのようにアピールしていくのか、未知数な課題に、眠りかけていた私のやる気が頭を持ち上げています。
政治も社会も農業状勢も不安だらけで、何を信じていいのか解らない時代ですが、私は迷うことなく
“いちずに一本道、
いちずに一つの事”
(相田みつを)
そんな気持ちで、これからも“農と食”に携わってゆきたいと思っています。