コラム「つらつらと」

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楽しきかな自然農業 ②

≪芽吹きの季節に思いを馳せながら≫

2024年2月 志藤 正一

  『冬来りなば春遠からじ』

  就農して間もない頃、庄内の農村指導者から教えていただいた歌である。
歌というからにはこの後に続く句もあったのかもしれないし、この歌がその指導者の作によるものか、他の方の歌を引用したのかすべて忘れてしまっている。

  確かに雪国の冬は厳しい。今でも雪の多い年には除雪に苦労する事がある。
しかし、この歌を思い出すとき、雪国の農家や人々がただ冬の厳しさにじっと耐えてきただけではないような気がする。

  子どもの頃一年で最も寒い大寒の季節は、どこの農家でも秋口から作り始めた堆肥を馬そりや牛そりで田んぼに運ぶのが仕事だった。小学校からの帰り道、我が家の馬そりを見つけると雪の中を走って追いつき、懐かしい堆肥の香りがする馬そりに乗せてもらったものだ。

  農業を始めたある時、父親に聞いたことがある。

  雪の季節は長いのにどうして寒さの一番厳しい大変な時期に堆肥を運搬したのだろうかと。『前の日に田サ付けだそりの道が夜の寒さで硬ぐナテ、馬がナンボデモノガラネヨスンナヤ』(前日に田んぼに付けたソリの道が夜の寒さで硬くなって、馬ができるだけ泥濘にはまらない様にするため)だそうだ。父親の答えだ。田んぼの中の雪を踏み固めただけの仮設のそりの道は少し気温が上がると柔らかくなり、馬は胸まで雪に埋もれて苦労して歩くことになる。小学生の頃から荷を降ろす間に馬が動かないようにタズナを持つ手伝いをしていた私にはその光景が容易に想像できる。

 

  野山の草花が一斉に芽吹き賑わいを見せる季節や春の農作業に思いを馳せながら、厳しい環境を逆手に取り、うまく活用していた農家の暮らし振りや、その心意気に触れる言葉だったような気がする。

  おいしい枝豆つくりの仕事は、この時期(または季節)ぼかし作りの他に種子の選別と堆肥作りがある。

  種子の選別は妻の担当だが、選別を終わった今年の種子を見て二人で思わずため息をついた。暑い夏の影響をまともに受けているのだ。枝豆の収穫後2週間ぐらいで品種ごとに随時採種するが、この時期が暑過ぎたり、雨が多かったりすると充実したものになれなかったり、カビが生えたりして揃って発芽できない種子になってしまう。これから発芽試験をしてどの程度の発芽歩合になるかを見極める予定だが今年は苗つくりに苦労しそうだ。

  我が家では10年ほど前まで養豚をやっていたのでその頃まではほぼ100%堆肥は自給していた。今は大部分を行政と農協が運営する堆肥センターの堆肥を使っているが、今でも養豚を続けている友人から譲り受けた豚糞と枝豆の茎葉、もみ殻など農場残渣を利用して一部は我が家で自給している。

 

  ぼかし肥も堆肥も自分で作れる発酵肥料だがその性質や使い方は全く違う。ぼかし肥は水分が無くなった為に発酵を途中で停止した言わば未熟肥料だが堆肥は水分や空気(酸素)を調節しながら完熟に近い状態まで発酵したものが良いとされている。

  堆肥は保水性や浸透性など土の物理的性質を改善してくれる役割も期待されているので原料もできるだけ作物残渣やもみ殻など繊維質の多いものが良い。これを土の中に鋤き込み、収穫期間の長い実取り作物などには根の下に埋め込んで使う時もある。

  一方ぼかし肥は堆肥と同じように使ってしまうと効果が少なく、再発酵するときのガス害で悪影響を及ぼすことがある。土の表面根際に施しその上に軽く土をかけてやるのが一番良い。土の表面から5~6㎝のところは酸素が十分にあり微生物が最も活躍しやすい場所だ。覆土をすることで紫外線を避け、目覚めた微生物の活力を維持することができる。施したぼかし肥は養分を供給し、さらに土の中にある有機物を分解して作物の力を引き出すことができる。

  間もなく冬を通り越し芽吹きの季節を迎える。 準備を怠りなく、おいしい米つくり、おいしい枝豆、そしておいしい柿つくりに向けて老骨を労わりながらもう少しの間頑張るこにしよう!!

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