庄内協同ファームだより

トップページ > 庄内協同ファームだより > 庄内協同ファ-ムだより 発行 No.98 2003年9月

25回目の秋

志籐 知子 藤島町

「どげだや、出来は?」「ねっけのー。」「ねっけぜー。がっかりするほど!!」  こんな会話が飛び交って、今は稲刈りの真っ最中。
10年ぶりの不作で、報道では、ここ庄内の作況指数は94と言われておりますが、実際の収量は、84くらいなのではないかというのが実感です。収穫に向けて様々のアクシデントに耐えて対応してようやくたどり着いた結果がこの作況。誰に怒りを向けられるでもなく、現実を淡々と受け入れて、コンバインを稼働させています。
10月から、もちの加工を控えている私たちにとってその原料となる餅米の不作は大きな脅威でしたが、どうやら不稔型の不作ではなさそうだとわかった時には、ホッと胸をなでおろしました。ちなみに今年のような不作は低温日照不足による遅延型の不作と呼ばれています。東北の中では太平洋側の地域で不稔が多発し、不作はより深刻となっていることを思えば、被害がこの程度でおさまったことに感謝しなければならないのかもしれません。
 いつもなら、もう大半を終えている時期ですが、稔りを待っての今年の稲刈りは、まだ始まったばかり・・・・
それでも、加工場では、餅つきの準備が着々と進んでいます。刈り取りの遅れが加工に影響することのないよう、調整に励み、穫れたての餅米がふっくらおいしい餅に変わる瞬間を私たちも楽しみに待っている所です。
 我が家では今は柿畑の草刈りと支柱立て、それに冬期間の豚の餌となるデントコーンでのサイロ作りがあります。稲刈りの合間を見てどの仕事をするかを決めます。仕事を選ぶ決め手は天候です。雨降りなら豚舎の中、小雨程度なら柿畑の仕事、晴れならデントコーンの処理という風に決まります。なにも仕事の無い日というのがあれば大歓迎なのですが、養豚農家という性質上、そういう日は1年に1度も巡ってこないのが現状です。
 忙しい日の連続で1年が終わってしまわないようにと9月から半日ずつ雇用を入れることにしました。特に条件なしで募集したので、結局1番最初に面接に来てくれたWさんと言う農業経験の無い実直そうな人に決まりました。
どの仕事も初めてで、彼を見ていると、自分の就農当初の辛かった思いを久しぶりで思い出すこととなりました。何をしても体力が追いつかず、口惜しくて頑張っても仕事はさほどはかどらず、それでいて疲れは人の倍・・・・ ああそうだったと、忘れていた自分の歴史を彼が繰り返して見せているようにも思えました。
 たいていの農作業をそう辛いとも思わずにこなせるようになった今の私は、自分自身が長い年月をかけて、自分の中に蓄積してきたものなのだと改めて認識させられました。そう考えると、農業という仕事の中で何時間も頑張って働く能力と体力のある私達は、もっと自分に自信を持ってもいいのではないか、誇りを持ってもいいのではないかと思えてきました。リズミカルに体を動かし、無駄なく無理なく持続する草刈りなどは、まさに技能そのものです。
就農して25年、25回目の秋を迎えました。知らず知らずのうちに自分の体の中に蓄積されて来た技があったようにこれから先の人生でも又、積み上げられていく何かがあればいいなと思っています。若さが失われていく分、肩の力を抜いて余裕を持って仕事とも人とも接していくこと出来ればいいと思います。
 デントコ-ン畑での夕刻、見上げた空に無数の赤とんぼが舞っていました。今年始めて目にする光景でした。今年のような不順な天候の中ですら、自然は小さな命を間違いなく育んでいます。その確かさに感動しつつ、自分自身の中にも、確かなものが息づいていることを信じて、忙しい季節を乗り切りたいと思います。

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